夏頃発売されてから、読みたいなと思って目をつけていた作品をようやく読みました。長野まゆみ作「兄と弟、あるいは書物と燃える石」です。もともと長野まゆみさんの本が好きで読んでいましたが、今回も不思議な世界に迷い込まされました。あらすじを説明しろと言われると、非常に難しい作品です。説明できるとすれば、帯に書いてある「目に見えるものは、いつもほかのなにかを隠している」でしょうか。帯文が、この本の本質だと思います。登場人物たちは誰が正気なのか、現実と空想の境目はどこなのか、過去か現在か、色々な疑問が噴き出して読んでいるうちに混乱しました。
しかし、文章は淡々としていながらも美しく、読みにくいということはありません。不思議で美しい、長野まゆみさんの世界が広がっていました。読み進めるごとにどんどん新たな物語が生まれていき、やっと謎が解けると思いきや、最後の1文でまさかのどんでん返しがあります。一度読んだだけではこの作品には入り込めませんでした。再読しながら、登場人物たちを観察しじっくり考えるのが楽しい作品なのだと思います。何度も読みながら、その都度違う解釈が生まれそうな物語でした。読み終わった達成感がありつつも悩まされるこんな本は、是非秋の夜長にゆっくりと堪能してもらいたいです。